雪月花
第6章 佐野美紀
がしっと左側腕を捕まれる。
進行を妨げられる俺。
振り向くとそこには、涙目になった佐野が俺を見上げていた。
「やだ…」
佐野は俺の目を見て呟く。
その声は泣くのを我慢している幼子のようだった。
「流星と付き合えないなんてやだよ…」
潤んだ瞳、赤く染まった頬、上目遣い、みずみずしいその唇から紡ぎ出される甘い声―…
普通の奴なら可愛いと思うんだろうな。
でもそれは、こいつのことをちょっとでも何か思っている奴の話。
なにも思ってない俺には効かない。
ましてや―
こんな演技、俺には効かない。