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第3章 三

彼に会い、いつものようにお茶を飲んだ後撮影をすることになった。

そして撮影をするために部屋を出たまではいつも通り。

でも今回は屋上ではなく屋内で。

広い部屋にベッドが置いてあり、ソファーにスタンド、古い映画に出てくるような風呂。

雑多な小物。

いろいろな物が棚に納まっている。

「ここが僕のスタジオだよ。撮影はここで行う」

彼の言葉に僕は頷く。

ここでどんな撮影が行われるのか。

「まずはそこの椅子に座って、硝子の器の中に手を入れて」

言われるままに、椅子に座るとテーブルに置かれた器に手を入れる。

青い硝子の中、僕の手が沈む。

彼がそこに水を入れる。

僕の手首までが水に浸かる。

冷たい。

「ゆっくりと水を掻き回して」

微かな抵抗を感じつつ、僕は指を動かす。

「綺麗だよ」

彼はそう言ってライトを点けた。

橙色の光が、水を照らす。

僕の手も染まる。

無言のままシャッターが切られる。

何枚も。

僕はどうしていいかわからず、水中で指を動かし続けた。

「水から手を出して。そのまま動かないで」

水から手を引き上げる。

その間もシャッターは切られ続ける。

水滴が下に落ちていく。

波紋が生じる。

シャッターを切る音だけが聞こえる。

 彼がカメラを置き近づいて来た。

僕の手をとると軽く唇を落とす。

心臓が跳ねた。

鼓動が早い。

きっと顔も赤くなっているだろう。

僕は動揺していた。

瞬間、パニックに陥った。

が、彼は気にする様子も見せず戻って行く。

「休憩にしよう。その後メインの撮影をするから」

そう言って微笑む。

僕は黙って頷いた。

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