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第3章 三

あの後のことはよく覚えていない。

僕は彼に身を任せて。

身体に残るのは、鈍い痛みと倦怠感。

耳に残る彼の声。

冷たい指先。

僕の肌を這う感触。

思い出すだけで、全身が熱くなる。

彼は何故あんなことをしたのだろう。

気まぐれ?

そして僕は何故、彼に従ったのか。

彼に魅せられていた。

だからといって…。

僕はゆっくりと身を起こす。

部屋の中は薄暗い。

彼の姿は見えない。

少しほっとした。

顔を合わせるのが怖い。

このまま彼が戻る前に帰ろう。

そして二度と会わない。

そうしなければ僕は…。

ノロノロと服を身につけ、ドアに向かう。

扉を開け、外に出ても物音は聞こえない。

外出しているのか。

早く、出よう。

そう思うのに躊躇ってしまうのは、未練があるからか。

「どうしたの?出ていかないの?」

「あ…」

「君は素直だね」

彼が笑う。

僕は何も言えず、立ちすくんでしまう。

「おいで」

腕が伸ばされ、僕はその手を取った。

もう後戻り出来ない。

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