RAIN
第5章 名前《翔side》
前に立ち尽くす拓海さんから目が離せない。まるで雨に侵食されていくようで、雨に攫われそうで、はじめて会った昨日と重なる。
よくよく見れば拓海さんの手には何も持っていない。雨から凌げる傘は持ち歩いてないようだ。俺に傘を返すためだけにこの公園で待ち続けていたのだろう。そしてもしものための傘を持ってきてないようだ。
俺は反対に傘を持っている。拓海さんに返された傘と、鞄に予備用として常備している折り畳み傘。
だけど俺はなぜか傘を開く気にはなれなかった。
それよりも俺の心中を占めていたものは……。
雨なんかに盗られたくない。拓海さんを奪われたくないという強い独占欲にも似た感情が増幅していく。
ますます雨に濡れていく拓海さんの後姿を見て、俺はとっさに拓海さんへと駆け出していった。
「あの……っ!」
拓海さんの側に寄り、濡れはじめた拓海さんの頭上に先ほど拓海さんから返された傘を拡げる。もうこれで拓海さんが雨に濡れることはない。
急に雨から免れた拓海さんが瞳を見開いて俺を凝視している。まるで俺の真意を探っているようだ。
「雨がひどくなってきたから……」
安心させようとなるべく笑みを浮かべながら言葉を選ぶ。とにかく警戒だけは解いてもらいたい。
「見たかんじ、傘持ってないようだし……、もしよければ家の近くまで送っていきます」
今まで拓海さんを引き止める言葉なんかこれっぽっちも浮かばなかったのに、今は自然と言葉が出てくる。
「でもこれ以上、君に迷惑掛ける訳には……」
遠慮している拓海さんに、俺は小さく首を左右に振った。
「迷惑だなんて全然思っていません。むしろ俺の方が北条さんに迷惑掛けてしまったようなもんだし……」
「え?」
俺の科白に理解を示せないのか、拓海さんが不思議そうな表情を素直に出す。
よくよく見れば拓海さんの手には何も持っていない。雨から凌げる傘は持ち歩いてないようだ。俺に傘を返すためだけにこの公園で待ち続けていたのだろう。そしてもしものための傘を持ってきてないようだ。
俺は反対に傘を持っている。拓海さんに返された傘と、鞄に予備用として常備している折り畳み傘。
だけど俺はなぜか傘を開く気にはなれなかった。
それよりも俺の心中を占めていたものは……。
雨なんかに盗られたくない。拓海さんを奪われたくないという強い独占欲にも似た感情が増幅していく。
ますます雨に濡れていく拓海さんの後姿を見て、俺はとっさに拓海さんへと駆け出していった。
「あの……っ!」
拓海さんの側に寄り、濡れはじめた拓海さんの頭上に先ほど拓海さんから返された傘を拡げる。もうこれで拓海さんが雨に濡れることはない。
急に雨から免れた拓海さんが瞳を見開いて俺を凝視している。まるで俺の真意を探っているようだ。
「雨がひどくなってきたから……」
安心させようとなるべく笑みを浮かべながら言葉を選ぶ。とにかく警戒だけは解いてもらいたい。
「見たかんじ、傘持ってないようだし……、もしよければ家の近くまで送っていきます」
今まで拓海さんを引き止める言葉なんかこれっぽっちも浮かばなかったのに、今は自然と言葉が出てくる。
「でもこれ以上、君に迷惑掛ける訳には……」
遠慮している拓海さんに、俺は小さく首を左右に振った。
「迷惑だなんて全然思っていません。むしろ俺の方が北条さんに迷惑掛けてしまったようなもんだし……」
「え?」
俺の科白に理解を示せないのか、拓海さんが不思議そうな表情を素直に出す。