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RAIN

第6章 拒絶《拓海side》

できることなら断ってほしい。そして俺たちはここで別れる。お互いの人生の中の、一ページにも満たない出会いと別れ。何の関心もなく、日々が重ねればお互いの名前も、そしておそらく顔すらも思い出せなくなる。それが理想だ。だから断ってほしいと心の奥底で願う。
だけど反面、どこかでほんの少しだけでもまだ一緒にいたいと望む自分も自覚していた。本来は決して望んじゃいけないとわかっていながらも、神崎くんが誘いに乗ることを願っている俺もいた。




「それじゃお言葉に甘えて、お邪魔します」
神崎くんから出たOKの返事に、俺は複雑な心境で苦笑するしかなかった。

傘を閉じ、半分以上錆びてしまっている白色の階段を上がり、一番奥にある俺の住処へと向かう。ジーンズのポケットにいれてある鍵でドアを開け、神崎くんを玄関中へと招き入れる。
「散らかってるけど……」
「そんなことないです」
そう言いながらも、神崎くんの視線はきょろきょろと見回していた。


目があちらこちらと泳がせている神崎くんにばれない程度に苦笑しながら、中へと招く。
「お邪魔します……」
先に住居人である俺が中に入ると、やや遅れて遠慮した声音で靴を脱ぎ始めた。
しかし中に上がろうとした瞬間、神崎くんの動きが止まる。

不審に思っていると、神崎くんの遠慮した視線と重なった。
「あの……、少し靴下が濡れてしまってるので脱いでもいいですか?」
神崎くんの理由で合点がいった俺はすぐに頷いてみせた。
「ついでに制服も洗濯するから脱いで」
「……え?」
驚いた神崎くんの反応に、俺はわかりやすく簡潔に説明する。
「雨で濡れちゃったからね。今、風呂沸かすから入って。ついでに洗濯するよ」
「そんな……、悪いですよ。そんな濡れてないから大丈夫です」
神崎くんの戸惑いは当たり前の反応だろう。
しかし風邪ひかれても困る。
「俺のせいで迷惑かけちゃったからね。せめてこのぐらいしかできないけど、お礼させてほしいんだ」
何とか安心させようと笑みを向ければ、神崎くんはまだ躊躇していたが「それじゃ」と従う旨を示した。






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