テキストサイズ

RAIN

第6章 拒絶《拓海side》

神崎くんが風呂から上がるまで待ち続けた。おそらく彼が入ってから二十分近く経っていると思われる。

こうして客を招き入れるなんて何年ぶりだろうか?
いや、この地に越してからははじめてのことだ。まだここに引っ越してからそんなに日がたっていない。ここで知人と呼べるのは数える程度しかいない。それだって親しい間柄と呼べるのはいないに等しかった。自分の生活レベルに干渉する程度の付き合いでしかない。

それは俺が自ら望んだことだからだ。そしてそんな生活に馴染んだ。




「あの……、お風呂ありがとうございました」

物思いに耽っていた俺に、遠慮がちな神崎くんの声がかかり、必然的に考えることを中断する。
彼はバスタオルを頭から被り、洗った髪から滴る水分を吸収するためにタオルで拭いていた。
「温かい飲み物を持ってくるよ。……コーヒーでいいかな?」
確認をとれば、神崎くんは微かに「……え」と零したが、すぐに微笑みながら「大丈夫です」と返した。微妙な違和感を抱きながらも、それ以上に追求せず、小さな台所へと向かった。

神崎くんが風呂に入ってる間にある程度の用意はしていたので、二人分のマグカップにコーヒーをいれてすぐに神崎くんのいる場所へと持っていく。
神崎くんは俺に指定された場所におとなしく座っていた。周りをきょろきょろと見回している神崎くんが俺に気づき、ぎこちなく笑顔を向けた。
俺は無言で二人分のコーヒーをテーブルの上に置き、神崎くんと向かい合う形で座ると、淹れたてのコーヒーを口に含んだ。
神崎くんはといえば、しばらくじっと手元のコーヒーを凝視していた。なんだか端からみるとにらめっこしているようだ。なかなかコーヒーに手を伸ばさない彼に、俺はある種の推定に至る。もしかして神崎くんはコーヒーが苦手なのではないかという可能性。
しばらく神崎くんを注意深く観察すれば、コーヒーに目線を向けたままの神崎くんが何か意を決したように、やっとマグカップを手にして口につけた。途端に眉が歪めたのを見て、間違いなく彼はコーヒーが苦手だと悟るに至った。



ストーリーメニュー

TOPTOPへ