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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

 準基が拳を固めた。
「浄蓮、この男の言うとおりなのか? 本当に私とはもう話すことは何もないというのだな」
「もう、お帰り下さい。そして、二度とここには来ないで下さい。ここは、若さまのようなお方が来るべき場所ではありませんから」
「―それが、そなたの応えなのか」
 準基が肩を落とした。
 何も言わず去ってゆく男の背中には拭いがたい翳りと孤独が滲んでいた。
 準基の姿が完全に見えなくなったのを見てから、秀龍が問うた。
「あれで良かったのか?」
「―ああ」
 浄蓮は気のない調子で応えた。
「あれで、良かったんだよ」
「お前は私を利用したんだな。あの男を追い払うために、私が恋人だと言い、それらしく見せるためにわざと男の前で口づけた」
 秀龍は淡々と続けた。
「だが、何故だ? あそこまでせずとも、話はできないと単に追い返してしまうだけでも良かっただろうに」
 その時、秀龍はハッと眼を瞠った。
「お前、泣いてるのか!?」
 浄蓮は自分でも気づかない中に、泣いていた。
「判らないよ、兄貴。俺、判らないんだ。あの人がこっちに来るのが見えた時、何か嫌な予感がしたんだ。あの人がたとえ何を言おうと、最後まで話をさせちゃ駄目だ、話を聞いちゃいけないって、思った。話を聞いてしまったら、取り返しのつかないことになると思ってさ、俺。俺たちのあんなところを見せれば、あの人が何も言わずに帰ってくれるんじゃないかって、二度とここには来ないんじゃないかって」
「あの男の様子からして、お前に想いを打ち明けるつもりだったのではないか?」
「だからこそ、あんなことをしたんだよ。兄貴の初めての口づけを貰っちゃ、未来の恋人には申し訳ないと思ったけどさ」
 と、いかにも浄蓮らしい物言いに、秀龍は笑う。

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