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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第4章 異端者

 負けだ、惨敗だ。流石は翠月楼の稼ぎ頭、女将が養女分にして眼をかけ、色々と教え込んできただけはある。
 昨夜のあの虚無を宿した瞳といい、やはり、明月は本物の妓生だ。この刹那、浄蓮は初めて、この見世いちばんの売れっ妓に対して畏敬の念を抱いたのだった。
 うなだれる浄蓮に、女将の容赦ない声が降ってくる。
「さあ、どうするんだい? 明月にちゃんと詫びを入れるのかい? もっとも、明月が若さまを打った真の理由が判らないようじゃア、これから先、幾らここにいたって、何も得るものなんぞありゃしないよ。今の中に、さっさと尻尾を巻いて出ていった方が身のためだ」
「―判りました」
 浄蓮がユラリと立ち上がった。
「身の程が判ったのなら、さっさと出ておゆき」
 女将にそれでも浄蓮が一礼して扉を開けようとしたのと、明月が飛び込んできたのはほぼ時を同じくしていた。
「女将さんッ」
「何だえ、騒々しい」
 女将が露骨に眉をしかめた。
「あたしは騒々しいのは嫌いだといつも言い聞かせてるだろう? 明月、お前に足りないものは品だよ、品。もう少し品位というものがなけりゃア、幾ら綺麗でも、中身のないただの安っぽい娼婦になっちまう。その点―」
 言いかけた女将に、明月が笑った。
「浄蓮はまだ子どもだってのに、生まれながらに備わった品がある、でしょ? お義母さん」
 だけどね、と、明月がその場にはおよそ不似合いな明るい声を上げた。
「両班のお嬢さまと、あたしみたいな賤民(チヨンミン)上がりを一緒にしないでね。貴族の姫さまなら、品があったって当然じゃない」
 と、女将が今日初めて、表情を和ませた。

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