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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第1章 闇

  闇

 腕にかかる重みはかなりの量だ。清花(チヨンファ)は両腕に抱えた籠をしっかりと持ち直し、腕に力を込める。それでも、ものの数歩も進まない中に腕が痺れ、危うく籠を取り落としそうになってしまった。
 ここで籠を落としてしまおうものなら、これまでやってきたことがすべて無駄になり、最初から洗濯し直さなければならなくなる。山ほどの量のものをたった一人で洗濯するのは、流石の清花も考えただけで億劫になる。元々、働き者の彼女は身体を動かすのは嫌いではない。しかし、いかにせん、これだけの量は彼女一人の手には余りすぎる。
 清花は籠を落とさないように細心の注意を払い、ゆっくりと歩を進めていった。が、次の瞬間、脚許の小石に脚を取られ、その華奢な身体がユラリと傾(かし)いだ。
「あっ」
 声を上げたところで、もう遅い。清花は後生大切に抱え持った籠ごと、その場に引っ繰り返った。弾みで籠が手から離れ、洗濯物が四方に散らばる。
「あーあ」
 清花は情けない声を上げ、恨めしげに周囲を見回す。一刻余りもかかって綺麗に洗い上げたものはすべて台無しになってしまった。二日続いた長雨が漸く上がったばかりの朝とて、これでもかというほど容赦なく泥まみれになっている。
 この有様では、もう一度、一からやり直しだ。直属の上司である張(チヨン)尚(サン)宮(グン)からは酷い

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