妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第1章 闇
清花は後宮に仕える女官である。入宮したのは今から九年前の八歳の時。張尚宮からはこの八年間、温かくも厳しい指導を受け、曲がりなりにも一人前の女官として勤務することができるようになった。が、生まれながらの性分というか、他人が厭がる仕事をいつの間にか引き受けさせられているといった案配で、おまけに上手く立ち回るのが何より苦手ときていて、張尚宮からはいつもお目玉を食らってばかりだ。
「この性格は死ぬまで治りそうにはないわね」
清花は一人で苦笑いして、ゆるゆると立ち上がる。今朝も本当なら二人で手分けして洗濯するはずだったのに、相棒は頭痛がするとかで部屋に引き籠もっている。崔(チェ)春枝(チユンジ)は清花とは正反対のタイプで、要領も良いし、機転もすごぶる利く。入宮した時期もほぼ同じだし、二人共に貧しい庶民の出だという境遇まで同じ。歳も春枝の方が一つ上だけだったから、二人はすぐに親友になった。
春枝は何かと理由をつけては、仕事を怠けようとする。今朝の食事の食べっぷりを見ていれば、彼女曰く〝頭も上げられないほどの頭痛〟というのが真実なのかは怪しいものだ。しかし、人の好い清花は春枝の望むとおりに床をしいて彼女を寝かしつけてやり、一人で大量の洗濯物と格闘していたというわけだ。
張尚宮はそんな清花の性格をよく心得ていて、
―他人(ひと)に嫌なものは嫌だとはっきり自分の意思を告げることも大切なのですよ。
と諭されるのだが、相手の心底困った顔を前にすると、どうしても否とは断れない。ましてや、春枝は八歳のときから実の姉妹のようにして育った間柄なのだ。毎度の仮病を使って仕事をサボろうとしているのだと判っていても、〝ね、お願い〟と両手を合わせて拝み倒されると、どうにも突っぱねることができないのだ。
「この性格は死ぬまで治りそうにはないわね」
清花は一人で苦笑いして、ゆるゆると立ち上がる。今朝も本当なら二人で手分けして洗濯するはずだったのに、相棒は頭痛がするとかで部屋に引き籠もっている。崔(チェ)春枝(チユンジ)は清花とは正反対のタイプで、要領も良いし、機転もすごぶる利く。入宮した時期もほぼ同じだし、二人共に貧しい庶民の出だという境遇まで同じ。歳も春枝の方が一つ上だけだったから、二人はすぐに親友になった。
春枝は何かと理由をつけては、仕事を怠けようとする。今朝の食事の食べっぷりを見ていれば、彼女曰く〝頭も上げられないほどの頭痛〟というのが真実なのかは怪しいものだ。しかし、人の好い清花は春枝の望むとおりに床をしいて彼女を寝かしつけてやり、一人で大量の洗濯物と格闘していたというわけだ。
張尚宮はそんな清花の性格をよく心得ていて、
―他人(ひと)に嫌なものは嫌だとはっきり自分の意思を告げることも大切なのですよ。
と諭されるのだが、相手の心底困った顔を前にすると、どうしても否とは断れない。ましてや、春枝は八歳のときから実の姉妹のようにして育った間柄なのだ。毎度の仮病を使って仕事をサボろうとしているのだと判っていても、〝ね、お願い〟と両手を合わせて拝み倒されると、どうにも突っぱねることができないのだ。