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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第3章 忍

 自分が二十年の生涯で初めて本気で愛した女が選んだ男が何故、別の男ではなく、お前だったのだ―? なあ、壮烈よ。
 王は清花が別の男を選んだことに我慢ならなかった。だから、朴内官を殺したのだ。
 朴内官さえこの世から消え去れば、女が自分の方を見るのではないかと思ったのだ。
 だが、女の瞳には最後まで王の姿は映らなかった。
 朴内官は死してもなお、清花の心を掴み続けている。
 清花が自分に靡かぬ限り、たとえ朴内官が幾度生き返ろうと、彼は朴内官を殺そうとするだろう。
 それほど、清花の心を独り占めする朴内官が憎かった。
「嫌われるよりは、いっそのこと、とことん憎まれた方が良い」
 王は昏い笑いを零す。
 忘れ去られてしまうより、憎まれても良いから、愛しい女の心の中に棲み続けたい。たとえどれほど憎まれようと、清花が自分のことを記憶にとどめていてくれるなら、自分は歓んで悪者にも殺人者にもなろう。
 恋しい男を殺めた憎い自分を、あの女は一生涯忘れないだろう。その心に憎しみを抱き続けてゆくだろう。
 それで良い。どのような形でも、あの女の中で自分という存在が風化しないのなら。自分の記憶を永遠にとどめておけるのなら、どれほど憎まれても本望なのだ。
 あまりにも烈しすぎる愛は時として身を滅ぼす。だが、この身が滅んでも構いはしない。
 朴内官のようにずっと清花に想われ続けられるというなら、彼は今すぐにこの胸に刃を突き立ててても良い。
 低い声で笑いながら、王は泣いていた。
 燭台の焔が照らす彼の頬はしとどに濡れていた。

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