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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第3章 忍

 あれは、いつだったか。朴内官と二人、宮殿の広場で影踏みをして遊んだことがあった。
 確か朴内官が引きつけの発作を起こして昏倒した彼を助けてまもない頃のことだ。朴内官が十五歳、彼が十二歳の春のことだった。
 十二歳で即位して以来、周囲は大人ばかりなのに、何故かその大人たちは子どもである彼の機嫌ばかりを窺った。その頃は、王とは大の大人でさえひれ伏させ、跪かせるほど偉いものだということが不思議でならなかった。
 誰もが彼の顔色を見ている中で、朴内官だけは、はっきりと物を言った。正しいことは正しいと言い、間違っているときは間違っていると彼に意見した。
 他の者であれば、非難めいたことを口にすれば忽ち彼の不興をかうのに、朴内官だけには言いたいように言わせていたのは、何も彼だけを特別視していたわけではない。朴内官の言葉一つ一つに真実がこもっており、王への忠誠心から出た科白だと判っていたからだ。
 説教くさい老人のように、ただ中身のないもっともらしい常識ばかりを口にするような男だったら、とっくに遠ざけていたはずだ。
 あの頃、彼は朴内官を臣下というよりは、兄のように慕っていた。いや、朴内官はずっと彼にとっては友であり、兄であった。
 生命を救われたからというだけではない。自分にはない、実直すぎるほどの実直さは常に彼にとって憧れであり続けた。
 その朴内官を、彼は自分の手で殺した。
―殿下、国王殿下。
 少年だった朴内官の声がまた耳奥で甦る。
 王は低い声で嗤いながら、両手で貌を覆った。
 どうして、そなただったんだ。
 王は亡き友に呼びかける。

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