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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第5章 讐

 やっとあの男の無念を晴らせたというのに、この空しさは何だろう。本懐を遂げたという歓びや達成感は微塵もなく、ただ静かな哀しみがひたひたと胸にひろがってゆくばかりだ。
 これから自分は、この哀しみを背負って生きてゆくのだろう。それが、たとえどのような名分があろうと、人ひとりをこの手にかけた自分の宿命だ。
 清花は眼を見開いた。
 三匹の薄羽蜻蛉が仲好く寄り添い合うように飛んでいる。
 蜻蛉はわずか十数日でその儚く美しい一生を終えるという。人の一生もまた何と儚いものであることか。短いからこそ、人も蜻蛉も懸命に生命を燃やし尽くそうとするのかもしれない。
 清花の頬を温かな涙がすうっと流れ落ちた。

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