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掌の浜辺

第1章 春 - story -

7.これにした

しとしと降る雨の中
残業帰りの大人たちは
くたくただ


 朝が来た。じめじめしている。今日は金曜日。オレは1講だけの日なので、授業に出たあとはすぐ帰ることにしている。サ-クルがなくなって以来、こういう生活が続いている。非常に暇だ。バイトしたいのは山々だけど、来週から実習が始まるから、それどころではない。何すりゃいいんだよ。

 プルルル
 カチャ
 「お電話ありがとうございます。なかのうえ法律事務所の上野です」
 「もしもし。あの、昨日の企業説明会で案内が載っていたところになかのうえ法律事務所さんがあるのを見まして」
 「はい」
 「そちらに面接しに伺いたいと思ったのですが」
 「はい。少々お待ちください」
 (しばらく保留音が流れる)

 「大変お待たせ致しました」
 「はい」
 「誠に申し訳ございませんが、只今担当の者が席を外しておりまして。夕方以降に戻るということなので、そのときにまたお電話していただく形になってしまうのですが、よろしいですか?」
 「あ、そうなんですか。え-と」
 私は、そう言って、少し考えてからこう続けた。
 「7時は大丈夫でしょうか?」
 「はい。よろしいですよ」
 「ありがとうございます。では、そのときにまた電話します」
 「はい、お待ちしております。それでは、失礼します」
 「はい。失礼します」
 私は、携帯電話を閉じ、かばんの中にしまいこんだ。

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