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掌の浜辺

第2章 秋 - heart warming -

3.既知

すごくよくしてもらっている女性の看護士さんは
ありのままの私でいられるから大丈夫だけど
他の人だとなかなかそうは行かなくて慣れない感じ


 「最悪の場合は歩くリハビリから始めることになるかもしれません」
 「命に別状は?」
 「今のところは大丈夫だと信じるしかないです」
 また少しだけ空気感が変わった? てか、この先生は極端な物言いするのか? わざと相手に不安を煽るような口調で。こういう人とはあんまり関わりたくないな。
 園田母はそうですかと言葉を漏らしたきり何も言うことはなかった。おやじさんの方は、そんな様子を見て励まし続けていた。
 「大変申し訳ございません。今は彼の目の覚めるまでは何ともお伝えすることはできかね…」
 そのあとを続けようとした医者を振り切って園田母は言った、「そんなのわかってますよ!!」
 あたりシ-ン。でもすぐおやじさんが一言。
 「信じよう」
 「……」
 正直、俺も気持ちが高ぶっていてそれを抑えるので精一杯だった。

 その一室を後にして、園田ご両親とも別れ俺は大学に戻る。ここからなら、今の時間帯だと…あと2時間半もバスがない。ははっ、と苦笑いしてしまった。さすが東ノ原山に近いだけある。交通の便、悪すぎ。これじゃ夕方すぎくらいになる。坂井のおっちゃんにはメ-ルでもしておくか、と思ったがあの人はメ-ルが嫌いなんだったことを思い出して直接謝りに行かないとだめだと考え直す。
 再び、バス、電車、自転車、そして西海浜大学構内へ戻る。時刻は午後5時40分。今日は火曜日だから、大学院の方で坂井のおっちゃんは午後6時から授業しているはず。その前に研究室に行けるな。ぎりぎりか?
 第1研究棟、3階、一番奥の327号室、坂井康史。コンコン。
 「どうぞ」
 「失礼します」

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