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掌の浜辺

第2章 秋 - heart warming -

 ガチャンと扉を閉めたと同時に俺の背中に声がかかった、「小野里か。今日は大変だったそうな」
 俺は、は? と思った。あっけにとられる。まさか園田のこと。
 「学生課から聞いた。というのはうそだがな。ははは。小野里のことを見たからな。研究棟から」
 俺は、まだ理解できていない。
 「そんなキバツな服着てる私のゼミ生のことなら、元野球同好会での活動のことを知らないとでも言うかな」
 「知ってたんですね。すみません。授業出ず…」
 「今回は見送る。私のゼミ生だしな」
 「ありがとうございます」
 「礼などいらんよ。そうしたら、これから仕事だから帰ってくれないか」
 「はい。すみません。本当にありがとうございます」
 まさかの出来事。まぁ、確かにここからなら俺の姿がばっちり見えるわけだ。園田の事故現場が目の前の第1研究棟、しかもその端だから。それにしても坂井のおっちゃんは今日機嫌よかったみたいだ。普通ならありえない。でもよかった、本当にあの人のゼミで。今夜はぐっすり眠れそうだ。

 「赤川くん」
 「はい。あ、お久しぶりです」
 セミナ-会場に着いたオレの名前を知っている、今は人事担当課長さん。昔、少しだけテレビ番組の特集で取材を受けたときの記者さんだった人。会うのは高校生のときの芸術大会以来だから…3年くらい?
 「ス-ツだとやっぱり制服とは印象が変わるものだね」
 「ほめていただいてます?」
 「ああ。おっと。そうだ、赤川くんの作品はこれだったね」
 セミナ-会場になっている一室、総合研修室の入口手前、扉の横の壁掛けに目を移すと、あった。見覚えのある1枚のデッサン絵画。あのときの芸術大会で大賞を取った作品。まさかこんなところにあるとは。
 「わざわざ飾ってくださって、ありがとうございます」
 「すばらしい作品だからね」
 「本当に光栄です」
 「おっと。では会場へどうぞお入りなさい」
 他の学生が来そうな雰囲気を察したのか、セミナ-会場の中へと促された。そのあと、本当に学生たちが次々と入ってきた。予知者すぎる、本当にあの人は。高校生のときもそう思った出来事あったし。あの芸術大会は表彰される人のことはメディアの人に初めて伝えられるのはその表彰式の時間内だったのに、その前にオレのところに来てかなりびっくりした覚えがある。だから人事に抜擢された?

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