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精霊と共に 歩睦の物語

第5章 花火を見るって大変

「じゃ、なんで、泣いてるの!」
 慌てる楓。

(泣いてる?)
 歩睦は自分の手で、自分の頬を触る。

 確かに、涙が流れている。なぜかは自分でもわからない。

「歩睦。ホントに怪我ない?」
 楓は手当たりしだい身体を触る。

「や、やめてください!また、落とすでしょ」
 歩睦は持っていたペットボトルを下に置き、両手で顔を擦って、涙の後を擦り消した。

「先輩。怪我してません!ご心配なく」
 歩睦は楓を落ち着かすように笑顔になる。

「ホントね。じゃ、これは私が持つわ」
 楓は笑顔になった歩睦の足元のペットボトルを指差す。

「はい!よろしくです」
 歩睦は自分のカフェオレだけ持って歩き出した。

「ちょっと、歩睦ちゃんまってよ」
 楓は浴衣の袖から一枚の風呂敷を出して、器用に袋状に結んで、ペットボトルを入れていく。


「はー」
(不覚…なんで、涙なんか出たんだろう)
 歩睦はカフェオレを開けて一口飲む。


「私も飲んで良い?」
 追いついてきた楓が歩睦に声をかける。

「どうぞ!いいですよ」
 振向きもせず、返事をする歩睦。

「じゃ、ちょうだい!」
 楓は、歩睦のカフェオレを取り上げ、ゴクゴク飲む。

「あーそれ、僕のですよ」
 慌てて、取り返す歩睦。

「私はちゃんと確認したわよ!いいって言ったわよ」
 楓の方が上手だった。

「はーもう、楓先輩は…」
 あきれ顔の歩睦。でも、心の中では、普通の楓で帰ってきた事が嬉しくて堪らなかった。

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