月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第18章 第5話【半月】・疑惑
疑惑
呉服商の内儀(おかみ)は傍らの金庫を開けると、無造作にひと握りの銭を掴み、香花(ヒヤンファ)に差し出した。
「じゃあ、これが今回の分、仕立賃」
香花は手のひらを見て、絶句する。
「そんな、おかみさん。こんなに頂くわけには」
言いかける香花の顔を見て、内儀は人の好さそうな面に微笑をひろげる。
「これだけの腕を持つお針子は滅多といないよ。今日の仕立賃だって、むしろまだ少ないくらいさ」
「ありがとう(コマ)ござい(スニ)ます(ダ)」
香花が頭を下げると、内儀は薄く笑んだまま緩くかぶりを振る。
「お前さん、今、幾つだっけ」
「十六です」
問われるまま応えれば、内儀はほんの少しだけ憐憫の情を眼に滲ませる。
「その年頃なら、他人(ひと)さまの花嫁衣装を縫うよりは、どんなにか自分のものを縫いたいと思うだろうに」
呉服商の内儀(おかみ)は傍らの金庫を開けると、無造作にひと握りの銭を掴み、香花(ヒヤンファ)に差し出した。
「じゃあ、これが今回の分、仕立賃」
香花は手のひらを見て、絶句する。
「そんな、おかみさん。こんなに頂くわけには」
言いかける香花の顔を見て、内儀は人の好さそうな面に微笑をひろげる。
「これだけの腕を持つお針子は滅多といないよ。今日の仕立賃だって、むしろまだ少ないくらいさ」
「ありがとう(コマ)ござい(スニ)ます(ダ)」
香花が頭を下げると、内儀は薄く笑んだまま緩くかぶりを振る。
「お前さん、今、幾つだっけ」
「十六です」
問われるまま応えれば、内儀はほんの少しだけ憐憫の情を眼に滲ませる。
「その年頃なら、他人(ひと)さまの花嫁衣装を縫うよりは、どんなにか自分のものを縫いたいと思うだろうに」