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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第20章 父と子

 それでも、彼は最後まで恋人に別離を切り出せずにいた。真悦は一度はヨンウォルに言った。
―そなたと腹の子のためであれば、家門も両親もすべて棄てて、ただ人として生きよう。
 しかし、乳母が放った心ない科白を頭から信じ込んでいたヨンウォルもまた頑なになっていた。
―もう私たちはお別れするしかございません。
 そう言って背を向ける恋人に、真悦はなすすべも、かける言葉もなかった。ただ哀しげにヨンウォルを見つめ、彼女の部屋を出てゆくしかなかったのだ。
 二十八年前の哀しい別離の裏に潜んでいた意外な経緯。それを知るにつけ、香花は当事者である光王にもその父真悦にもかけるべき言葉を持たなかった。
「済まなかった」
 真悦がその場に膝をついた。

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