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隣の椅子

第1章 1

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その時、啓の表情が止まったのを俺は見逃さなかった。
前から歩いてくる女の子。
啓がその子と目が合った瞬間、ほんの一瞬、一瞬とも言えないぐらい一瞬。
啓の表情が止まった。
スローモーションのように流れたその空気が、きまずいという事を語っている。
その子は俺の知らない子だった。
第一印象は、とても綺麗な子。
かわいいでもなく、美しいの部類に入る少女。年は上か同い年くらい。
肩のちょっと下ぐらいまでの黒い髪は内側にカールしていて、動くたんびに天使の輪がきらきらとひかる。
肌は白く、形のいい小さな唇は赤かった。
目は一見一重の様だが奥二重で、瞬きすると可愛らしく睫が影を落とす。
童話に出てくる白雪姫。それがしっくりとくる。
直感的に、「ああ、この子は演技がうまそうだな」と思った。
彼女がやろうと思ったら、どんなにブリブリの子でもクールな子でも演じる事ができただろう。
その目を上目使いにすれば、パッチリとした目が男をたまらない気持ちいにさせるだろうし、
クールにかつセクシーに目を背ければ、また奥行きのある表情が男を虜にさせるだろう。
その確かに感じる二面性は、自分に似通ったところがあってこそだったのかもしれない。
「ねえ、啓?もしかしてさ。啓がティーに誘った子ってさっきの子?」
そう言ってしまった後、啓の表情を見て自分の考えが確信へと変わった。
小さい頃からの仲だったが、あからさまに恥ずかしそうにしている啓の顔は初めて見た。
ティーに誘っただなんて、ただの冗談だったのに当たってしまった事にひたすらびっくりする。
でも、そんな事は顔にださずに、こっちを見る瞳を見返した。
彼女は困惑と焦りの表情を顔に浮かべていた。その焦りはどこから来るものなのかわからない。

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