アルカナの抄 時の息吹
第1章 「魔術師」正位置
街中のとあるBAR。室内はほどよい暗さで、落ち着いた、大人のムードに包まれている。談笑する男女。一人酒を楽しむ仕事帰りの男性、女性客。皆静かに杯を傾け、ゆっくりとした時を過ごしていた。
…ある一人を除いては。
「っらく、なんれあらしが怒られなきゃなんないのよ」
バン、とグラスをカウンターに叩き置くと、回らない舌で愚痴をこぼした。
「らいらい、名前も知らない見ず知らずの赤のらにんに、お祝儀なんれわらさなきゃなんないっれのが、おかしいでしょっ!会社が同じっれらけれ!!」
だんだん大きくなってきた声に、周りの客がちらほらと顔を向けた。
今日の朝礼でのこと。社内の別の部署の男性が結婚するという、めでたい話題が上がった。結構なお偉いさんだったから、重役たちも結婚式に出席するみたい。自分の直属の上司――この会社では珍しく、女性である――も出席するらしい。部下である私たちも“当然”出席する体で話は進んでいる。
だけど、自分は独り身だし、家計は火の車。結婚式は欠席して、ご祝儀もできればなしの方向で…と思っていた。
そして「大変身勝手なお願いで恐縮なんですが」と枕詞をつけて、お財布事情が厳しいことを“これ以上ないくらい丁寧に”伝え、穏やかに欠席を願い出た。
が、自身の体裁もあるのだろう、彼女はじわじわ圧力をかけながら、出席の方向へ持っていこうとする。
…ある一人を除いては。
「っらく、なんれあらしが怒られなきゃなんないのよ」
バン、とグラスをカウンターに叩き置くと、回らない舌で愚痴をこぼした。
「らいらい、名前も知らない見ず知らずの赤のらにんに、お祝儀なんれわらさなきゃなんないっれのが、おかしいでしょっ!会社が同じっれらけれ!!」
だんだん大きくなってきた声に、周りの客がちらほらと顔を向けた。
今日の朝礼でのこと。社内の別の部署の男性が結婚するという、めでたい話題が上がった。結構なお偉いさんだったから、重役たちも結婚式に出席するみたい。自分の直属の上司――この会社では珍しく、女性である――も出席するらしい。部下である私たちも“当然”出席する体で話は進んでいる。
だけど、自分は独り身だし、家計は火の車。結婚式は欠席して、ご祝儀もできればなしの方向で…と思っていた。
そして「大変身勝手なお願いで恐縮なんですが」と枕詞をつけて、お財布事情が厳しいことを“これ以上ないくらい丁寧に”伝え、穏やかに欠席を願い出た。
が、自身の体裁もあるのだろう、彼女はじわじわ圧力をかけながら、出席の方向へ持っていこうとする。