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アルカナの抄 時の息吹

第1章 「魔術師」正位置

「…あたしだったら、もっとうまくやるわね~」
ぼそりとつぶやいた。

「ほう。どんなやり方だ?」
あたしを挑発するかのような口調。

「ふふーん。知りたい?」

「言ってみろ。聞いてやる」

知りたいなら知りたいって素直に言いなさいよ!…と言いたくなるけれど、我慢だ。我慢。


「あたしなら…スパイを送るわね。で、周りの信用を得て、絶妙なタイミングで裏切らせるのよ」
フフン、と鼻高々に言ったが、直後に自信をなくす。

スパイなんてすぐに思いつきそうだし、何か理由があってそうしていないと考えるのが自然だ。実際、ハースは難色を示しているようだった。

う…まずった?

と、ハースが口を開いた。

「そんな卑怯な戦法、正攻法を好まれる陛下がおとりになるわけ」

「なるほど、スパイか。いいかもしれんな」

「…そうなんですか?」
ハースは目を丸くして王を見た。

「で、でしょ!」

「実は、いろいろ悪条件で手が出せなかった国がある」
王は地図のある一点を指し示した。


スパイとして、内務に携わる者などから、ハースの息子を含む数人が選ばれた。また偶然にも、すでに内部で働く者の中に、ヴェルテクスと繋がりのある者が何人かいた。

彼らはスパイとして潜り込んだというわけではなかったが、ちょうどいい。怪しまれぬようゆっくりと合流し、ハースの息子を中心にスパイ活動を行った。

よかった。これで死ななくていい人が死なずに済む。と、あたしは顔をゆるませながら、部屋を出た。

「…よろしいのですか?」
先ほどの国の方は、とハースが意味ありげに聞いた。

「…そっちも諦めない。あいつが城にいると、虫酸が走るんだ。すぐにまた戦場へ行かせる」
そう言うと、王は地図を閉じた。





           第一章 完

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