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アルカナの抄 時の息吹

第3章 「運命の輪」逆位置

「そういえば、君の名前を聞いていなかった。よかったら教えてくれないか」

「森野真樹よ。あー、真樹でいいわ。…あなたは?」

「マキね。僕はレクザム。呼び捨てで構わないから」
青年はそう言い、柔らかく微笑んだ。

「レクザムね。意外とシブイ名前ね」

「そうかな?」
青年は短く笑った。そうよ、とあたしもつられて笑う。やがて、じゃあね、と別れる。

その様子を遠くから見ている者が、二人いた。一人は、女だった。窓にもたれ掛かり、暫くじっと眺めていたが、やがて窓辺から姿を消した。

そして、もう一人は――。

「あいつと何を話していた…?」
怒りを含んだ低い声が飛んできた。

――戻ってきた王だった。それほど大きな声でもないのに、はっきりと耳に響く。王は眉間にシワを刻み、わなわなと肩を震わせている。

「別に、なんでもいいじゃない」
まるで夫の浮気を疑う妻みたいね、とばかりにため息混じりにそう言うと、余計に王の怒りを買ったようだ。王はさらに眉間を寄せ、身を強ばらせた。

「あいつとは話すな!」
王が怒鳴る。だが、あたしは平然としていた。

だって、あたしが誰かと話していけない理由なんてない。

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