アルカナの抄 時の息吹
第6章 「戦車」逆位置
「僕をあの方の代わりに愛するのも、もう無理だってこと。…いや違う。最初から代わりになんてなれていなかったんだ、僕は。そうなんでしょ――“母さん”」
必死に動かしていた手が止まる。
「…今、なんて」
「本当はとっくに、全部わかってた。母さんも僕も。僕が似てるのは、目と髪の色だけ。彼の方がずっと、あの方に似てる――苦しいほどに」
全部知っていた。母さんが彼を避け続けたのはむしろ、彼が先代に“似すぎていた”からだと。そして母さんは、僕を愛していたのではない。依存していたのだ。
母――大妃は、金縛りにあったように、青ざめたまま硬直していた。
「もうやめたいんだ。ずっとやめたかった」
子として、愛されたかった。ずっと。
「捨てられるのが怖くて、やめられなかった。だけど」
ボタンに伸ばされたままの手をどけ、自分に覆い被さる母親から抜け出る。
「それも終わりだ」
演じ続けることに疲れたんだ、もう。
「待ちなさい――待ってレクザ」
「これ以上僕に押しつけないで。僕は、僕として生きたい」
恐らく人生で初めて言った本音。そんな言葉の際にも変わらず笑んでいるのが、異常さの証明でもあった。
「…さようなら。母さん」
数年来の異常な関係に終止符を打つ。青年は静かに、暗い部屋を出た。
必死に動かしていた手が止まる。
「…今、なんて」
「本当はとっくに、全部わかってた。母さんも僕も。僕が似てるのは、目と髪の色だけ。彼の方がずっと、あの方に似てる――苦しいほどに」
全部知っていた。母さんが彼を避け続けたのはむしろ、彼が先代に“似すぎていた”からだと。そして母さんは、僕を愛していたのではない。依存していたのだ。
母――大妃は、金縛りにあったように、青ざめたまま硬直していた。
「もうやめたいんだ。ずっとやめたかった」
子として、愛されたかった。ずっと。
「捨てられるのが怖くて、やめられなかった。だけど」
ボタンに伸ばされたままの手をどけ、自分に覆い被さる母親から抜け出る。
「それも終わりだ」
演じ続けることに疲れたんだ、もう。
「待ちなさい――待ってレクザ」
「これ以上僕に押しつけないで。僕は、僕として生きたい」
恐らく人生で初めて言った本音。そんな言葉の際にも変わらず笑んでいるのが、異常さの証明でもあった。
「…さようなら。母さん」
数年来の異常な関係に終止符を打つ。青年は静かに、暗い部屋を出た。