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アルカナの抄 時の息吹

第6章 「戦車」逆位置

「マキ」
珍しい声が、あたしを呼んだ。振り向くと、あの青年が、やあ、と微笑んだ。

「ああ」
そういえば、ここはあの部屋の近くだったと気づく。

「仲良くやれてるみたいだね」
王との関係を言っているようだ。侍女伝いで聞いたのだろうか。

「ええ、おかげさまで」

「…君となら、うまくいくと思ってた」
青年は意味ありげに笑む。

「あなたはどう?」
あの子との恋は、という意味で言ったが、青年の笑顔はわずかに曇った。

「…うん。頑張ってるよ。変わるために」
最後の言葉が少々気になったが、それ以上は追求しないでおく。立ち入るべきでないと、直感が告げていた。

「そっか」

この時、あたしは感じていた。ピリリとした視線。なにかを見つめじっと観察する、鋭く、突き刺さるような目を。どこからか確かに感じたが、振り返って確認することはしなかった。

暫くとりとめのない話をし、青年と別れる。と、ふと背後に人の気配。振り返ると、部屋着姿の王が立っていた。

「あいつも…おまえをマキと呼んでるんだな」
眉間にしわを刻みながら、王は言う。怒ってる…のかしら、やっぱり。

「あ…ええ、まあ、成り行きでね。だけど、あたしが愛してるのはあなたよ。あなただけ」

「…わかってる」
ふ、と短く息をつき、王は静かに言った。…本当にわかってるだろうか。不安だった。目を合わせず、複雑な表情でわかっていると言う王が。

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