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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第7章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦

 紗英子は子どもを持つことを人生の第一目標に掲げてきた。彼女にとって、その可能性を根こそぎ奪われた出来事がどれほど辛かったかは察するに余りある。
 有喜菜自身、子どもの問題は別として女であるという証―子宮摘出という出来事が自分に降りかかってきたら、やはり相当な衝撃だと思う。
 どれだけ紗英子の干渉に腹が立ったとしても、あのひとことだけは人として口にすべきではなかった。
 紗英子にしてみれば、決死の想いで挑んで漸く授かった子どもに、何かあれば大変だと思ってのことに違いない。しかし、干渉される立場の有喜菜にはまた傍迷惑では済まない話だった。しかも、それがこれから十ヶ月、子どもが無事に生まれるまで続くというのだから、うんざりするのもこれはこれで仕方ない。
 あんな無情な科白を口にする代わりに、何故、事を分けて〝干渉されるのはいやだから、そっと見守って〟と言えなかったのか。有喜菜なりに紗英子の心を傷つけてしまったことに対して反省はしていた。

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