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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第7章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦

 しかし、その一方で、あくまでも有喜菜の身体を子を産ませるための道具としてしか見ていない紗英子を恨めしく思う気持ちも依然としてあった。
―あなたがそんなにも神経質なくらい私の身体を心配するのは、私のためではなくて、お腹の子どものためでしょう。
 はっきりと言ってやりたい想いがないわけではなかったけれど、そんな科白を口にしても自分が惨めになるだけだから止めたのだ。
 判りきったことを何を今更と思われるだけで、紗英子は反省などしないだろう。
 果たして、自分が代理母などを引き受けたことは正しかったのだろうか。有喜菜の心は揺れていた。
 妊娠・出産というのは、そもそも神の領域のはずである。少なくとも昔は人間には立ち入ることのできない神聖な場所であった。それが医学の飛躍的な進歩で、子どもに恵まれない人も親になることができるようになった。

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