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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第9章 ♦RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦

 別に深い意図があって問うたわけではなかった。が、直輝はどこか遠い瞳で呟くように言った。
「名前は紗英子に任せるよ。あんなにも欲しがり待ち望んだ子どもだ。彼女が付けるのがいちばん良いだろう」
「そう。そう、よね」
 肩すかしを食らわされたような気分で、有喜菜は足許の小さな石ころを蹴った。心を晩秋の寒い風が吹き抜けてゆくような気がした。
「愉しみよね。来年の今頃は、もしかしたら、生まれた赤ちゃんがこの公園で遊んでいて、それを微笑んで眺めているのは、あなたと紗英かもしれない。ううん、きっとそうよね」
 それが良いのだ。やはり、血の通い合った親子、夫婦が一緒に過ごすのが最も理想的なのだ。
 と、直輝が小首を傾げた。
「それは、どうかな」
 ふいに彼は表情を引き締めた。

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