
Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
ただし、それは夫と妻が互いに愛し合い信頼し合っていればの話で、気持ちがとうに冷め切ってしまっているのであれば、また話も違ってくる。少なくとも、子どもを望んでいる間は、紗英子は直輝を夫として必要とし、愛していたはずだ。むろん、その必要としている気持ちの中で〝子どもの父親〟としての要素が大きく占めていたことは認める。
それでも、まだ夫への想いは確かにあった。しかし、辛い不妊治療の過程で、幾度も直輝に背を向けられ拒絶されていく中に、紗英子の気持ちもまた直輝と同様に少しずつ冷えていった。
恐らく、二人の気持ちは不妊治療を始めたときから、少しずつすれ違い、溝は深まっていっていたのだろう。だが、二人ともにそのことについては気づいていながら眼を背け、見ないふりをしてきた。だからこそ、辛うじて結婚生活の破綻を免れていたのだ。
直輝の方は知らないが、紗英子に限っていえば、今夜の夫のひと言で気持ちも完全に冷えた。蔑まれていたというのもショックだったけれど、いちばん辛かったのは憐れまれていたという事実だ。
「出かけてくる」
直輝が寝室のドアを開ける気配がした。
紗英子は背を向け、ギュッと眼を瞑っていた。出ていきたければ出ていくが良い。あなたがいなくても、私は平気だ。
子どもを持つ夢も失った今、これ以上、何を怖れることがある? もう、怖いものは何もない。
それでも、まだ夫への想いは確かにあった。しかし、辛い不妊治療の過程で、幾度も直輝に背を向けられ拒絶されていく中に、紗英子の気持ちもまた直輝と同様に少しずつ冷えていった。
恐らく、二人の気持ちは不妊治療を始めたときから、少しずつすれ違い、溝は深まっていっていたのだろう。だが、二人ともにそのことについては気づいていながら眼を背け、見ないふりをしてきた。だからこそ、辛うじて結婚生活の破綻を免れていたのだ。
直輝の方は知らないが、紗英子に限っていえば、今夜の夫のひと言で気持ちも完全に冷えた。蔑まれていたというのもショックだったけれど、いちばん辛かったのは憐れまれていたという事実だ。
「出かけてくる」
直輝が寝室のドアを開ける気配がした。
紗英子は背を向け、ギュッと眼を瞑っていた。出ていきたければ出ていくが良い。あなたがいなくても、私は平気だ。
子どもを持つ夢も失った今、これ以上、何を怖れることがある? もう、怖いものは何もない。
