恋愛短編集
第5章 母さんのオムライス
「また、こんな所で寝てるのかい?聡は」
屋上で寝ていた俺の隣にふわりとやって来る梓。
ほっとけ、と俺。
「これ以上授業サボると単位がないぞ?」
梓は困ったように目尻を下げた。
梓の笑いは目を見たら、どういうものか直ぐに分かる。
本当に楽しいときは猫みたいに目が細くなるんだ。
「ほらこれ、今日のプリントだ」
そう言って梓は鞄から白い紙を取り出し、俺に渡した。
寝転がっていた俺は、紙を受け取って両手で持ち、太陽に透かすように腕をめいいっぱい伸ばす。
そしてその一番上に書かれている単語の羅列を読み取る。
『進路希望調査表』
「明後日、提出だそうだ」
なんでもないことの様に言う梓。
俺にとってもなんでもない。
俺に未来なんてないのだから。
こんな紙、太陽の熱で溶けてしまえばいい。