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記憶売りのヤシチ

第2章 真実

…私の記憶はここまで。私はゆっくりと彼に近づく。かつての私ではなく、現在の姿で。

“私の部屋の”窓辺に佇む彼は、静かに私を見つめている。私は彼の仮面に手を伸ばし、それをそっと外した。

「“あっち”には一番最初に、幾重にも鍵をかけておいたのに…“こっち”よりも先に思い出してしまったんだね」
私の知らない顔で、彼は言った。いや、一瞬そう思われたが、そうではない。だんだんと思い出していく…この青年を。

「水沢くん。…あなただったのね」

彼は、高校のクラスメイト。初めは、ただそれだけだった。いつも気になる微笑みを浮かべる彼は、謎に包まれたミステリアスな男の子だった。

「君は、あの頃の記憶を持っていないようだった。なのに…思い出してしまったんだよね」

…そう。青年が、彼だということを…すべてを、私は次第に思い出していった。だけど。

「だから」
目の前の彼は言った。ゆっくりと、私の髪を撫でる。

「君の記憶に、鍵をかけたんだ」

「あなたは…最初から知っていたのね。何もかも…覚えていた」
私が言うと、彼はゆっくりとうなずいた。

そこで私は思い出す。自分が急いでいたことを。

「オトギ…」

「愛してる」
弾かれたように口を開いた私の言葉を遮るように、彼は言った。

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