記憶売りのヤシチ
第2章 真実
「やめて」
お願い、と涙声で彼にすがる。足先の術式は、既にお腹の辺りまで進んでいた。
彼が何をしようとしているのか、はっきりとはわからない。だけど、嫌な予感がする。この術を解かなければ…そんな気がしていた。
だが今の私には、それはできない。どうしても解術の術式を思い出せない。それに、たとえ思い出せたとしても、人間となった私には術は使えないだろう。
「オトギリ…!」
「今度は、僕の番だよ。僕が君を救う番」
「何をしたの…?」
「つらい記憶しかないこの家は、もう君のものじゃない。次に目を覚ましたとき、君のそばには…優しい家族がいるから」
「まさか…、もしかして…」
無形のものにかければ、術者はその代償を購うことになる。かつての私は、そうして人間になった。彼は…彼のしようとしていることは…恐らく、それ以上の代償を伴うものだ。
「…愛してる」
彼はもう一度愛の言葉をささやくと、術を組む言葉をぽつりぽつりと紡ぎ始めた。
「私も愛してる…!だからやめて、お願いだから…っ!」
お願いよ…、と泣き崩れる。彼を止めるすべを、今の私は持っていない。
「おやすみ」
彼がそう呟いたのを最後に、閉じたくないまぶたが勝手におりた。
「僕の“存在”を、記憶ごと…君にあげる。これからの君は、水沢沙奈だよ」
眠る少女の口に飴玉を一粒入れると、青年はそう呟いた。
―完―
お願い、と涙声で彼にすがる。足先の術式は、既にお腹の辺りまで進んでいた。
彼が何をしようとしているのか、はっきりとはわからない。だけど、嫌な予感がする。この術を解かなければ…そんな気がしていた。
だが今の私には、それはできない。どうしても解術の術式を思い出せない。それに、たとえ思い出せたとしても、人間となった私には術は使えないだろう。
「オトギリ…!」
「今度は、僕の番だよ。僕が君を救う番」
「何をしたの…?」
「つらい記憶しかないこの家は、もう君のものじゃない。次に目を覚ましたとき、君のそばには…優しい家族がいるから」
「まさか…、もしかして…」
無形のものにかければ、術者はその代償を購うことになる。かつての私は、そうして人間になった。彼は…彼のしようとしていることは…恐らく、それ以上の代償を伴うものだ。
「…愛してる」
彼はもう一度愛の言葉をささやくと、術を組む言葉をぽつりぽつりと紡ぎ始めた。
「私も愛してる…!だからやめて、お願いだから…っ!」
お願いよ…、と泣き崩れる。彼を止めるすべを、今の私は持っていない。
「おやすみ」
彼がそう呟いたのを最後に、閉じたくないまぶたが勝手におりた。
「僕の“存在”を、記憶ごと…君にあげる。これからの君は、水沢沙奈だよ」
眠る少女の口に飴玉を一粒入れると、青年はそう呟いた。
―完―