
恋ばか
第29章 ~好きになっちゃいけない人~
「…っ…」
あの噂が本当だというのを目の当たりにし、また泣きそうになる。
「…春架…?」
空さんの心配そうな声が聞こえると同時に、視界が真っ暗になった。
「っ!?」
それと同時に聞こえた低い声。
「すみません先輩。 春架を保健室に連れて行くので失礼します。」
その声はとても怒気を含んでいて、ユイが怒っていることがわかる。
「そうなの? 引き留めてごめんね?」
「失礼します。」
ユイに抱きかかえられながら、空さんの前を通過する。
「…………に。」
(ぇっ…?)
空さんの口から発せられた言葉に、俺は涙を溢れさせた。
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「…大丈夫か?」
「…っ…うん…」
保健室に着いても泣き止まない俺に、ユイが声をかけてきた。
「…じゃあ、後でまた来るから。」
「…うん…ッ…」
枕に顔を埋めたまま返事を返すと、ユイは俺の頭を軽く撫でて保健室から出て行った。
『お大事に。』
そう言った空さんの声に感情は全くこもってなかったけど、俺のことを少しでも心配してくれたって思ったら、嬉しかった。
「う…っ…」
空さんの視界に俺が入った。 空さんが俺のことを心配してくれた。
それが、ただただ本当に嬉しくて…
「空さっ…ごめ…ッ…なさっ…」
嬉しさと、空さんに対する罪悪感に挟まれ、涙を流す。
