
恋ばか
第29章 ~好きになっちゃいけない人~
「大事には至らなかったし、もういいんですよ。」
「しかし…」
まだ謝ろうとする先生を、手で制した。
「謝らないで下さい。 元々、自分で蒔いた種だし…」
今回のことは、自業自得だ。
「俺の方こそすみませんでした。 先生に迷惑をかけてしまって…」
「そんなっ…」
そんな俺たちのやり取りを見て、ユイが口を挟んできた。
「その辺にしておいて、早く怪我の治療しないと…」
「そうですね。 では、別室へ。」
ユイの言葉に、先生は頷いた。
「ほら。 手、貸してやるよ。」
「うん。 ありがと。」
ユイに手を借りながら、診察室に移動する。
「では、上着を脱いで下さい。」
「あ、はい。」
上着を脱いで、先生の前に腰掛ける。
「失礼します。」
先生の手が、腕に触れた。
「っ!!?」
…が、反射的に腕を引っ込めてしまった。
「桜木様?」
「…ぁっ…」
どうしたんだろう?
体が震える。
「…ゃ…ッ…」
「春架?」
先ほどまでの光景が、よみがえってくる。
「やだっ…」
「どうした?」
怖いっ…
「助けっ…て…ッ…いやだっ!!」
「春架!!」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いっ…
「春架っ!!!」
「っ!!」
肩を揺さぶられ、ハッと我に返る。
「…ッ…ユ…イっ…」
「大丈夫か?」
辺りを見回すと、みんな心配そうに俺を見ていた。
「ユイっ…俺…俺っ…」
「お前…もしかして…」
怖かった。
他の人の手が自分に触れた途端、恐怖心がこみあげてきた。
「男に触られるのがダメなのか?」
「…っ……」
右腕で体を抱きしめる。
「おっ…れ…」
体の震えが止まらない。
