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秘書のお仕事

第5章 鬱憤の種




___________






『社長、おはようございます』



「んー」




せっかく爽やかな挨拶を交わしてやったというのに
なんですかね、その返事は




いや、しかしここで怒鳴っても仕方がない


あたしは用意しておいたファイルを取り出し、開けた




『本日は10時から川合呉服店の社長様と交渉。
12時から1時までは昼食を。
そこから株式松屋で会議がありまして…』




ふふ、どうよ
このエリートっぷり



この数日で秘書らしくなったでしょう




『…そして7時に帰社、ということになります』



そう言い終えると、あたしは満足げにファイルを閉じた



これだけ完璧に出来たんだ



お褒めの言葉のひとつやふたつ、いただけるんでしょうねえ?





「ん、わかった」





『…』





「どうした?」





『…褒めてくれないんですか』




心の叫びが言葉になって出てしまい、社長はにやりと笑う



「褒めてほしいのか、そうかそうか」



『いや、嘘です』



「いくらでも褒めてやる、こっちに来い」



手を組みながら椅子を回し、社長はあたしの方に身体を向ける




『結構です』



「頭でも撫でてやろうか?」




『…』




正直、あたしは一人暮らしで、寂しい時も多々あった


だからって


だからってそんな言葉に乗せられるなよ!!

あたし!!




そう言い聞かせはするが、あたしは社長の側まで足を進めた



黙ってその頭を向ける







『…』





「ぶふっ!!」




前から吹き出す音が聞こえたので、顔を上げた


社長は口に手を当てて笑いを堪えている









…わかっていて騙された自分が恥ずかしい





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