テキストサイズ

↑逆転↓御斗戯世界

第2章 始まりはいつも突然

【Side: 璃斗】

今までに無いくらいの全力疾走で少女に駆け寄る。こんなに必死に走ったのはいつぶりか、と、頭の隅で考えた。

沢山の人間に見捨てられた少女と亡骸に辿り着くと、璃斗は少女の手を取り、無理矢理たたせる。

泣きわめいていた少女が一瞬で泣き止み、不思議そうに真っ赤に腫れた目をこちらにに向けた。

フィクションで考えると、とっても熱い展開だと思うけど、今の私にはそんなこと考えている余裕なんてなかった。

「一緒に来て!」

叫ぶように命令すると、再び少女の目に涙が溜まる。交互に私と母親を見て、少女は私の手を強く握った。

「お、おかあさんが、うご…」

少女の声がそこで途切れた。大きな目をさらに大きくして、喉の奥からヒ、と小さな悲鳴をあげる。その目は自分の背後に向いていることを知り、私は無条件で肩を強ばらせた。

自分の後ろに何がいるのか、振り向かなくてもわかる。やっぱり、逃げればよかった、なんて思ってしまった。わかっていたから尚更、後悔が押し寄せてくる。

ゆっくり、ゆっくりと振り向く。


案の定、そこにはナイフを持った殺人鬼がいた。

手元のナイフは真っ赤に染まりあがって、それでも鋭さが窺えるあたり、相当の切れ味だと思われる。紺のレインコートのフードを深くかぶり、顔は確認できないが、男だと分かった。


なんで私はこんなに冷静なんだろう。人間、窮地に陥ったら冷静になるって聞いたことあるけど、と私は思った。今が正にその時に違いない。

男はじりじりと此方に歩み寄ってくる。口元に笑みを浮かべるというサービス付で、だ。気持ち悪い上に気持ち悪い。

周りを見れば、駅にいる“生きている”人間は自分達だけだった。威王もいない。きっと助けを呼びに言ったか、周りの人間と共に避難したか。

もし後者であっても、私は威王を恨むつもりはなかった。それで当たり前なんだから、と。

でも、実際一人はとても怖かった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ