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↑逆転↓御斗戯世界

第6章 笑って

【Side:璃斗】

腕を痛いくらい掴まれて、ゆっくりと振り向けば何故か、ウィザードが泣きそうな顔でこちらを見据えていた。なんであんたが泣きそうになってんのよ。泣きたいのはこっちよ?

「俺がっ、悪かった…。だから、」

さっきまでのツンは何処へやら、懇願するような目でこちらを見ている男は、静かに、行くな、と呟いた。

こいつが尊大な性格の持ち主なのは、今までの態度でわかった。だから、謝るのにも精一杯なんだろう。眉間によった眉の皺がすごい。

「なんで、私を連れてきたの?他の人じゃ駄目だったの?」

この質問も何度目になるんだろう。ただ、今聞いたら答えてくれそうな気がしたからかもしれない。

腕を掴んでいた手にさらに力が籠って、正直痛いけど、それを口には出さなかった。目の前の顔を歪めている男の答えが知りたかった。


「お前じゃなきゃ、駄目なんだ…。」

男は蚊の泣くような押し殺した声でそう言った。

森の中に沈黙が広がる。木々が風にざわめいて、その沈黙を重たくしないようしているかの様だった。まるで、木々が私たちを気遣うかのような。

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