向かいのお兄さん
第53章 崩れ
『だから今日は…あの…もう大丈夫です』
少しでも、機嫌を損ねないような言葉を選んだつもりだった
「そうかー…」
雅也さんは少し考え込んだけれど
「じゃ、置いてったレシピ本とかだけ持って帰ろっかなー」
と、いつもの調子で家に上がり込んできた
『…』
内心ヒヤヒヤしてた
直也が見てたら…また…って
「あ、プチケーキ作ったんだー」
雅也さんは、机に並べてあるお菓子を見て言った
『はい、味は自信ないんですけど』
「おいしそう♪」
雅也さんはペロッと舌を出してみせた
「じゃあこれとこれと、これかな」
持ってきていた鞄に本を仕舞うと
雅也さんはフゥッとため息をついた