向かいのお兄さん
第57章 共に歩んで
「ぅっ…」
小さくそんな音がした
音だと思っていたそれが、本当は女性の"声"だったとわかるのに、そう時間はいらなかった
女性のか細い手が、一本一本の指を小刻みに震わせながら、その自身の胸元を掴んだ
服を握っても、その震えは止まることがなく
「母さん…?」
『えっ…』
驚いている暇を与えることなく
女性は膝から地面に崩れ落ちた
何が起こっているのか、必死に理解しようと
頭の中が回転しているように感じた
それが処理されてしまう前に
もう直也の叫び声が聞こえた
「母さん…!!!!」
お母さん…?