向かいのお兄さん
第57章 共に歩んで
『…無理?』
「うん、美咲、無理してる」
お見通しなのかな
あたしは急に恥ずかしくなって
せっかく向けてくれた直也の目から、視線を逸らした
「美咲そういうの、いっつも分かりやすい」
頬に温かいものが触れた
直也の
手だった
『そういうのって何さ…』
「だから、そういうの」
直也の手は、二三度あたしの顔を撫でた後
ゆっくりと滑り落ちて
あたしの手を包み込んだ
『…直也…』
「母さん…病気持っててさ…」
ポツポツと
雨が降る
「前まで元気にしてたけど、最近悪化してて…
入院してたのに、すぐどっか抜け出して…」
ポツポツと
雨が降る
「探してもどこにもいない。気がついたらまた病院に戻ってる
人が心配してるのに、のん気にぶらぶら歩いて言うことを聞かない…」
ポツポツと
「もう、いつ発作が起こるかわかんない状態で、いつ死んでもおかしくない状態で…看病してる側の身にもなってほしいってのに…」
雨が降る
「今日こうやって…倒れて…」
『直也…』
傘をさしてあげる
『泣かないで…?』
あなたが泣いているなら
あたしが受け止めてあげるから…