向かいのお兄さん
第57章 共に歩んで
「あの子ったらねぇ…」
幸子さんは窓の外を眺めた
きっとその先には、直也の顔が浮かんでいるんだろう
「本当に、お人好しというか…世話焼きというか…
私のことをえらく気にかけてくれるの」
『…』
「確かに私は…体は弱いけれど、でも、こんな狭い部屋に閉じ込められるなんて嫌なのよね」
あたしのお母さんほどの年の人が見せた笑顔は、その辺を駆け回っている少女のようだった
「美咲さんと出会ったあの丘の上…私、大好きな場所なの。
町が一望できるでしょ?
本当に…素敵」
…幸子さん、あたし、そんな話がしたいわけじゃないの
「薬を飲むより、あの場所にいた方がいいわ。
でも、また直也に連れて帰られちゃった」
幸子さん…
幸子さん…
直也は、あなたのことが大切だから…
大切な人だから、そこまで気にかけてくれるんですよ?
「私なんかほおって置いてくれていいのに、好きにさせてくれなくて…」
『贅沢です』
つい口から出てしまった
『そんなの…贅沢です』
ああ
多分これ、抑えられる自信がないよ…