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手紙~天国のあなたへ~

第4章 野辺送り

 愃の背中は酷く淋しげに見える。そう、初めて出逢ったときに瞳をよぎった孤独よりも、もっと濃い翳りを背負っているようだ。
 今、このまま愃さまを行かせてはならない。
 正直な自分が留花に告げた。
 刹那、留花は走り出していた。
「愃さま!」
 愃は既にかなり先まで歩いていた。漸く夜が明けたばかりとて、狭い路地にはまだ人影はない。
 丁度、隣家の扉が開き、今、起きたばかりらしい成洙(ソンス)が出てきた。成洙はまず愃をじろりと一瞥し、更に視線を留花に移す。
 だが、人眼を気にしているときではなかった。留花は愃の背中を後ろから抱きしめた。
「私は嘘つきです。愃さまのことを心からお慕いしているのに、来ないでだなんて言って―。本当は今朝だって、帰って欲しくないのに」
「留花はそれで良いのか? 本当に構わないのだな」

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