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手紙~天国のあなたへ~

第4章 野辺送り

 外は漸く白々と朝が明け始めた頃合いであった。細く開いた隙間から冬の朝の冷気が忍び込んでくる。あまりの寒さに、留花は思わず身震いした。
 愃が入り口に置いてある靴を履いている様を留花は背後から眺めていた。
「身体には十分気をつけるのだぞ」
 後ろは振り返らず、ゆっくりと歩いてゆくその後ろ姿が次第に遠ざかってゆく。
 ああ、あの男(ひと)が行ってしまう。私から離れていってしまう。
 留花は唇をきつく噛みしめた。
 本当にこれで良いの?
 もう一人の自分が問いかけてくる。
 でも―。
 自分で自分に言い訳をしようとして、止めた。
 身分が、住む世界が何だというのだろう? 私はあの方がこんなにも好き。
 それだけでは、この想いだけではいけないのだろうか、十分ではないのだろうか。

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