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手紙~天国のあなたへ~

第5章 夫婦

 愃が寝入っているのを確かめてから、留花は布団を敷き、愃に手を貸して布団に入らせた。きちんと掛け布団を掛け、そっと窓を開ける。細く開けた窓の向こうには、銀色に輝く満月と風に舞う粉雪が見えた。
 三月も終わりになって、そろそろ桜が咲こうかという時季になって雪が降るだけでも珍しいのに、煌々と照らす満月の空を雪が舞っているとは、世にも摩訶不思議な光景であった。
 そういえば、と、留花は懐かしく思い出す。愃と初めて出逢ったのは一月の初め、漢陽に初雪が降った日であった。そして、その三日後、に再会したときも急に雪が降り出したのだ。何故か愃との想い出はいつも、雪が彩っているような気がする。そして、今夜も。
 留花は、そっと腹の上を押さえてみた。今夜、愃に膝枕をしながら子守歌を歌っていた時、初めて子どもが欲しいと思った。愃によく似た凛々しい面立ちの子をこの身に授かることができたなら、どんなにか嬉しいだろう。

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