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手紙~天国のあなたへ~

第5章 夫婦

 愃が味わったような孤独ではなく、母親の愛情を、両親の愛をたっぷりと注がれて育つ子は、きっと愃のような淋しい瞳をした大人にはならない。
 天地神明(チヨンチシンミヨン)の神よ、どうか旦那さまの御子をこの私に授けて下さい。
 心の底から祈る。
 その時、銀色の満月がひときわ妖しく輝き、ひとすじの星が流れた。緩やかに弧を描きながら堕ちてゆく星は何故か美しいというより、留花に禍々しい印象を与えた。
 留花の身体中の膚が粟立ったのは、開けた窓から流れ込んでくる冷気のせいではなかった。占い師申香順の血を引く留花の中で、何かがしきりに警鐘を鳴らしていた。
 それは紛れもなく時代の奔流が押し寄せ、運命の歯車が軋みながら回り始める音だったのである。

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