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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 が、愃はどんなつまらない話―例えば、野良の猫と犬がまるで恋人同士のように仲睦まじそうに寄り添って日向ぼっこしていたというような話でも、さも重大な報告を受けるように真剣な表情で耳を傾ける。そのため、留花はつい滔々と喋ってしまうのだった。
 時折、愃が留花をちょっとした悪戯心でからかって愉しむのも変わらない。適度に遊び心があり優しくて物判りの良い愃は、理想の恋人でり良人であった。そう、ただ一つ、彼が依然として何者かを留花に明かさず、二人の関係をできるだけ秘密にしておこうしている限りにおいては。
 それでも、留花は十分満足していた。愃さえ傍にいてくれれば、彼女には他に望むことはなかった。だからこそ、二人の夫婦と言い切るには曖昧すぎる関係について敢えて突きつめて考えようとはせず、現実から眼を背けていたのだ。

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