
手紙~天国のあなたへ~
第2章 雪の記憶
「素直に罪を認めたのに免じて今回だけは見逃してやる。ただし、次はあると思うなよ?」
半ば脅すように言ってやっただけで、職人は震え上がった。
「へっ、へえ。判りやした。もう二度と、このような悪事は働きません」
職人が這々の体で逃げてゆこうとするその後ろ姿を一瞥し、男が更に声を張り上げる。
「おい、お前がこの娘から盗み去ろうとした巾着を置いてゆけ」
そのひと声に、留花は弾かれたように顔を上げて男を見た。
男の秀麗な顔から鋭さが消え、やわらかな微笑がひろがった。
「盗むって―、もしかして」
茫然とする留花の前にドサリと音を立てて薄桃色の巾着が落とされた。
留花は慌てて巾着を拾う。そんな留花の方に眼もくれず、職人は猫に追いかけられる鼠のように一目散に駆け出していき、見る間に人混みの中へと姿を消した。誰
が見ても、あの走りっぷりで
脚の骨が折れているとは信じない
だろう。
半ば脅すように言ってやっただけで、職人は震え上がった。
「へっ、へえ。判りやした。もう二度と、このような悪事は働きません」
職人が這々の体で逃げてゆこうとするその後ろ姿を一瞥し、男が更に声を張り上げる。
「おい、お前がこの娘から盗み去ろうとした巾着を置いてゆけ」
そのひと声に、留花は弾かれたように顔を上げて男を見た。
男の秀麗な顔から鋭さが消え、やわらかな微笑がひろがった。
「盗むって―、もしかして」
茫然とする留花の前にドサリと音を立てて薄桃色の巾着が落とされた。
留花は慌てて巾着を拾う。そんな留花の方に眼もくれず、職人は猫に追いかけられる鼠のように一目散に駆け出していき、見る間に人混みの中へと姿を消した。誰
が見ても、あの走りっぷりで
脚の骨が折れているとは信じない
だろう。
