
All Arounder
第53章 Bring Back
「いやそれにしても、マスターの名前もびっくりだし、まさか人物探しの依頼対象がマスターだったことにも驚きだわ」
井上は腕組みをしながら
ほほーんとひとりでぶつくさ言っている。
「アカイクロウってまた、けったいな名前やなぁ」
「葵ちゃん、それディスってる?」
何にしても、これで大志たちの依頼は完了である。
報酬が袋の中の竹刀を見せてもらうだけだったので、2人は胸を撫で下ろした
「えーーっと、たしか、この辺にぃ…」
有利香は袋の中をゴソゴソと漁った
「あーりましたい!」
両手で大事そうに抱えて持ってきたものは、布で包まれたもの…
おそらく例のソードブレイカーであった
「このギャルほんとにナイフ持ち歩いてやがった」
『退斗はてっぽう持ち歩いてるじゃん』
有利香は手の中の布を1枚ずつ開いていった
するとそこから、鋭く光る刃物が顔を覗かせた
「これでやっと返せます〜」
有利香の満足そうな顔
自分の役目をひとつ達成できた安堵の顔であった
「ああ…わざわざありがとう」
マスターの声はいつもよりも落ち着いて聞こえた
マスターの持ち物だという刃物
「確かに俺のだね」
古い記憶の引き出しを、ゆっくりと開けているのだろうか
マスターの目は刃物を見ているようにも、
それに関わる思い出を刃物の先に見ているようにも見えた
有利香がそっと、ソードブレイカーを差し出した
マスターもそこに手を伸ばした
その瞬間
ピュンッ
と何かが空を切る音がした
ーーーー!!??
「なんちゃって〜〜〜〜」
有利香が刃物を振り上げていた
「んなわけあるかよ腐れチンポ野郎♪」
「マスター!!!」
大志が叫ぶや否や
刃物は一気に振り下ろされた
