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All Arounder

第54章 You Asked For It



「俺はその…今こうやってバーのマスターして…すごく充実してるんだよ。昔のことから考えると、想像もできないほど…」


つい先日も、悪夢を見た



「だけど俺は…俺が殺してきてしまった人間に、呪われてるんじゃないかって、

お前だけ幸せになるなんて、許せない

って言われてるようで、実際に夢でーーー」





いくつもの死体が地面に転がっている悪夢を


もう何度も見たんだ





「それは背負っていかなきゃいけない」




ハッとした





「久狼がその…悪夢を、過去の自分の行いが招いていると思うのなら、それは受け止めるべきだ。

許されないことをしてきたのは、間違いじゃないから」



「淳司…」



「俺は悪夢こそ見ないけど、何度も何度も後悔した。
自分のせいで人が傷ついたり、命を落としてしまったり…

全部自分の軽率な行いが招いたことだと、受け止めながら生きてるよ」



その目の奥には何が映っているんだろうか…


戦場で殺してきた人々なのか

亡くしてしまった奥さんなのか



「でもだからって、怯えることはない。
それは久狼が自分で自分に科した罪だ。
呪いだの悪夢だの、結局自分で作り出している幻想なんだよ」


「自分で…か…」



「感じている罪の意識は、しっかり持っておけよ。
俺はそれが出来てこそ人間だと思ってる」




なんだか救われた気がした




「…淳司に話して、良かった」


「良いことだけは一丁前に言える男だからな。
あ、そうだ…」


淳司は紙とペンを取り出すと、何かを書き留めて俺に渡した


「ほら、俺の連絡先だ。
よかったら今度、うちへ遊びに来いよ」


「いやそんな…」


「平気だ、娘がひとりいるだけだから、気にするな」



紙を受け取り、ポケットに仕舞う


淳司はそれを見届けると、金を置いて立ち上がる



「さて…そろそろいい時間だから、またな」


「ああ。今日はありがとう」



「なんの、こちらこそ。
ただ、そうだ、久狼…」



淳司は少し、眉間にしわを寄せた




「犯した罪に、ツケは回ってくる。
早いか、遅いか、それだけだよ」




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