
All Arounder
第54章 You Asked For It
「へぇ、大きな家だなぁ」
「そうだろう!
有利香との二人暮らしだからマンションでも良かったんだけど、道場も併設して~って考えてたらこんなに広くなった!」
約束通り、その日俺は淳司の家にお邪魔することにした
特にこれといって用事があるわけでもなく
「娘さんは甘いの好きかい?」
「お、手土産かありがとう、しかも…
ちまたで噂の、いちごのバウムクーヘンじゃないか」
「女の子が好きそうだろ?」
淳司は手土産を受け取ると、さっそく中へ通してくれた
飾り過ぎないシンプルな家
まずはリビングに案内された
「とりあえず座っておいてくれよ。
このバウムクーヘンは有利香が帰ってきたらみんなで食べよう」
「今日は?」
「なんと今日も試合だ!
帰りは6時回ってしまうだろうから、とりあえずゆっくりしよう」
淳司は手土産を台所に運び終えると、
代わりに麦茶を出してきた
「ありがとう」
「麦茶を出すには今日はちょっと寒いが、我慢してくれよ」
「…この前淳司と話してから…なんとなく、悪夢とか…自分を苦しめるものを受け入れられるようになってきた」
テーブルに置かれたトレイから、麦茶がひとつずつ運ばれていく
それを眺めながら、流れるように口を動かした
「そうか。
少しでも楽になったなら、それでいいさ」
「ああ…」
淳司も向かい側のソファに腰を下ろした
「奥さんは…どんな人だった?」
「そうだなぁ…体はもともと弱かったけど、気は強い女性だったよ
そう、だんだん有利香が、母親の顔に似てきたんだ」
顔をほころばせながらも
声はゆったりと、落ち着いていた
「本当に…
愛していた。
これからって時に、置いて行かれてしまった」
「…ツケ…」
「そう、ツケだ。ツケが回ってきたって何度も思った。
…でも結局、受け入れなきゃいけなかった。
有利香がいるんだから、俺が…俺が面倒みなきゃって、
じゃなきゃ彼女に合わせる顔が無いなって…」
淳司は
良い人に、出会えていたんだろうな…
大切な人に先立たれる寂しさは
理解できていた
多かれ少なかれ
その時の淳司に、気持ちは寄り添うことができてたんじゃないだろうか
